「贈与」とは、無償で財産を渡すことをいいます。
贈与する財産の内容は、金銭のほかにも、不動産や有価証券、貴金属や車を買い与えることも贈与に含まれます。
個人から個人への贈与には「贈与税」がかかり、原則として贈与する総額が年間で 110 万円を超えると、受け取る側に贈与税を支払う義務が生じます。
このことから不動産の贈与では、ほとんどの場合において贈与税がかかることになると考えてよいでしょう。
この記事では、不動産を贈与する際に発生する贈与税とその他の税金の種類、贈与税の計算方法や軽減できる特例についても解説します。
目次
1. 贈与税とは?どんなときに課税されるのか?
贈与税とは、財産を贈与した際に課税される税金のことです。
財産を渡す側の人を「贈与者」、受け取る側の人を「受贈者」といい、個人間での贈与の際には、原則として贈与を受けた「受贈者」に支払い義務が生じます。
贈与できる財産には、現金以外にも不動産なども含まれますが、その評価額が一定の額(原則として年間 110 万円)を超える場合には贈与税がかかることになります。
これが贈与税の基本条件です。
それでは、どのようなケースに贈与税が課されるのかを見ていきましょう。
ケース 1. 個人から個人に財産を贈与したとき
贈与税は、個人から個人へ贈与があったときに課税されます。
法人から個人への贈与の場合は、給与や賞与、または寄付として扱われ、受け取った側に所得税および住民税が課税されます。
また、個人から法人への贈与については、法人側の利益になるため、法人税が課税されます。
ケース 2. 1年間に受けた贈与の総額が 110 万円を超えたとき
個人から個人へ贈与があった際、1 年間に受けた贈与の総額が 110 万円を超える場合には、その贈与額に応じて贈与税が課税されます。
ケース 3. 対価を支払うことなく不動産の名義を変更した場合
不動産の名義変更をする際には、登記原因証明情報を添付する必要があります。
不動産の名義変更において、対価の支払いがない場合、譲渡金額ゼロの売買契約書か、あるいは贈与契約書などの書類によって申告することになります。
その場合には、贈与とみなされるため、贈与税が課税されます。
ケース 4. 不動産を購入するための借入金を返済しなかった場合
たとえば、親から借り入れた資金で不動産を購入した後、その借入金の返済を免除された場合(返済しなかった場合)、未返済部分について贈与が行われたとみなされ、贈与税が課税されます。
ケース 5. 市場価値からかけ離れた価格で不動産を譲り受けた場合
たとえば、市場価格が 5,000 万円の不動産を 500 万円で譲渡した場合、差額の 4,500 万円の贈与が行われたとみなされ、贈与税が課税されます。
2. 贈与税の計算方法
贈与税の課税方式について
贈与税の課税方式には、「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。 原則として用いられるのは「暦年課税方式」です。 「相続時精算課税」では、2,500 万円の控除額があるため、高額の不動産贈与の際に考慮するとよいでしょう。 ここでは、まず原則となる「暦年課税方式」について説明します。
2-1. 暦年課税方式とは
暦年課税方式とは、1 年間(1 月 1 日から 12 月 31 日まで)に贈与を受けた額に対して課税するものです。
この場合、年間 110 万円までの非課税枠が設定されています。
そのため、年間の贈与総額から非課税枠の 110 万円を差し引き、その残りの部分に規定の税率を適用して贈与税を算出します。
贈与税額の計算方法は次の通りです。
【 贈与税の額算出方法 】
贈与税額=(課税価格-基礎控除 110 万円)×税率-控除額
2-2. 贈与税の計算に必要な「評価額」とは
不動産の贈与税の計算には「評価額」が必要です。
不動産の贈与においては、不動産の評価額=贈与金額 とされます。
評価額は、基本的に不動産の固定資産税評価額、または相続税評価額になります。
土地の相続税評価額は、路線価方式(路線価が定められている地域の評価方法)、もしくは倍率方式(路線価が定められていない地域の評価方法)で算出、建物の場合は、固定資産税評価額から算出されます。
土地と建物のいずれにおいても、借地権など他人の権利が付着している場合には、評価額が低くなるようになっています。
2-3. 贈与税の「課税価格」とは
贈与税の「課税価格」は、1 月 1 日から 12 月 31 日までの 1 年間に、個人間で贈与を受けた財産の総額になります。
2-4. 贈与税の税率とは
贈与税額を計算するには、まず 1 月 1 日から 12 月 31 日までの 1 年間に贈与を受けた財産の総額を計算します。
次に、その総額から基礎控除額 110 万円を差し引きます。
そして、差し引かれた残額に税率を乗じて税額を算出します。
【 贈与税の額算出方法 】
贈与税額=(課税価格-基礎控除 110 万円)×税率-控除額
税率には、「一般税率」と「特例税率」があります。
直系尊属(父母や祖父母など)以外から贈与を受けた場合や、受贈者の年齢が 18 歳未満の場合には、「一般税率」を適用。
直系尊属から贈与を受け、尚且つ受贈者の年齢が 18 歳以上の場合には、「特例税率」が適用されます。
一般税率の適用を受ける財産を「一般贈与財産」、特例税率の適用を受ける財産を「特例贈与財産」といいます。
それぞれの基礎控除後の課税価格に応じた税率は、以下の通りです。
【 一般贈与財産用 】
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 |
300万円 以下 |
400万円 以下 |
600万円 以下 |
1,000万円 以下 |
1,500万円 以下 |
3,000万円 以下 |
3,000万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一般税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
【 特例贈与財産用 】
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 |
400万円 以下 |
600万円 以下 |
1,000万円 以下 |
1,500万円 以下 |
3,000万円 以下 |
4,500万円 以下 |
4,500万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
特例税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
参照:国税庁ホームページ 「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
※リンク先 URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
3. 不動産を贈与する際に必要になる税金とは?
不動産の贈与を受けた際に課税される税金は、贈与税だけではありません。
贈与税のほかにどのような税金が課税されるのか、ひとつずつ見ていきましょう。
3-1. 不動産取得税
不動産取得税とは、不動産(土地・家屋)を売買、贈与、交換、建築などによって取得した場合に課税される税金です。
※相続による取得の場合には、不動産取得税は課税されません。
- < 免税されるケース(免税点)>
- 1. 取得した土地の価格が 10 万円未満の場合
- 2. 家屋を建築したときの価格が 23 万円未満の場合
- 3. 家屋を売買・贈与などにより取得したときの価格が 12 万円未満の場合
不動産取得税の計算
不動産の価格(評価額)の 3%または 4%
不動産取得税を算出する際の不動産の価格(評価額)は、固定資産課税台帳に登録されている価格になります。
不動産の価格(評価額)に 3%または 4%の税率を乗じて税額を算出します。
< 注意点 >
- 土地及び住宅については、平成 15 年 4 月 1 日から令和 6 年 3 月 31 日までに取得されたものに限り、税率が4%から 3%に軽減されます。
- 宅地又は市街化区域内農地等宅地の価格に比準して評価される土地については、令和 6 年 3 月 31 日までに取得されたものに限り、課税標準が 2 分の 1 に縮減されます。
3-2. 登録免許税
登録免許税とは、不動産の所有権が移転したことを登記する際にかかる税金です。
贈与によって所有権移転登記を行う際にも課税されます。
登録免許税の計算
不動産の評価額の 2%
課税標準となる不動産の評価額は、取得した不動産の固定資産税評価額です。
乗じる税率は、贈与による所有権移転登記の場合は 2%です。
4. 不動産贈与税の負担を軽減できる特例
ここでは、不動産の贈与税を軽減できる特例について説明します。
また、いずれの特例の適用を受ける場合にも、贈与税の申告が必要になることを留意しておきましょう。
4-1. 夫婦間での不動産贈与に関する特例(配偶者控除)
夫婦間において不動産を贈与した際に、一定の条件を満たせば、その年の基礎控除額 110 万円に加えて、
最大 2,000 万円までが非課税とされる特例が「配偶者控除」で、おしどり贈与とも呼ばれています。
この特例を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
【 適用条件 】
- ・婚姻生活が 20 年を超えてから、贈与が行われたこと。
- ・配偶者から贈与された財産が、居住用不動産、あるいは居住用不動産を取得するための金銭であること。
< 注意点 >
上記の条件に加えて、 次の3点が要件として定義されています。
- 対象となる不動産は、居住を目的として用いられる土地、あるいは土地の上に存する権利または家屋であり、国内のものであること。
- 贈与を受けた年の翌年 3 月 15 日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産、または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が実際に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
- 配偶者控除は、同じ配偶者からの贈与については、一生に一度しか適用を受けることができない。
4-2. 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60 歳以上の父母や祖父母から 18 歳以上の子や孫へ贈与する際に利用できる制度です。
相続時精算課税制度を選択した場合、合計 2,500 万円の贈与まで贈与税が課税されない仕組みになっています。
【 適用条件 】
- 贈与する人の年齢が、贈与をした年の 1 月 1 日時点で 60 歳以上であること。
- 贈与を受ける人の年齢が、贈与を受けた年の 1 月 1 日時点で 18 歳以上であること。
- 贈与する人と贈与を受ける人との関係が、親と子あるいは祖父母と孫であること。
ただし、この制度を利用した贈与額の合計が 2,500 万円を超えた場合、超えた部分に一律 20%の贈与税が課されます。
また相続時には、贈与額合計が相続財産に加算された上で、相続税が課税されます。
相続時精算課税制度を選択した場合、以降の贈与は、すべて相続時精算課税制度での贈与となり、暦年贈与に戻すことはできません。
暦年贈与の場合、年間の贈与額が 110 万円以下であれば、課税されることはありません。
しかし、相続時精算課税制度の場合は、年間の贈与額が 110 万円以下であっても、相続時には、相続財産に加算され、相続税が課されることになります。
このように、相続時精算課税制度を選択する際には、たとえ利用できる条件が揃っていたとしても、まずは暦年課税方式と比較し、それぞれのメリットとデメリットをよく検討することをお勧めします。
4-3. 不動産の購入資金を贈与した場合に利用できる特例
不動産ではなく、「不動産を購入するための資金」を贈与する場合は、さらに次の特例の適用を受けることができます。
住宅等取得資金の非課税制度
令和 4 年 1 月 1 日から令和 5 年 12 月 31 日までの間に、親や祖父母から、子や孫が住宅取得資金として贈与を受けた場合に、一定の要件を満たすとき、贈与額の一定額までが非課税となる制度です。
この制度によって非課税とされた贈与金額は、たとえ相続開始前 3 年以内の贈与であっても、生前贈与加算の対象とはなりません。
あくまで居住用の新築住宅等を取得するための援助資金に限定されるため、住宅ローン返済のための資金援助の場合は、特例の対象外となります。
非課税限度額は、住宅用家屋を取得するための契約締結時期にかかわらず、資金贈与を受けて新築等をした住宅用家屋を次のように区分して定めれています。
住宅の形態 | 非課税限度額 |
---|---|
耐震、省エネ、バリアフリーの住宅用家屋 | 1,000万円 |
上記以外の住宅用家屋 | 500万円 |
5. 贈与税の申告方法
不動産の贈与を受け、贈与税の支払い義務がある場合には、税務署に申告の手続きを行います。贈与税の申告方法や納税方法について説明します。
納税時期
贈与税の申告期間は、贈与を受けた年の翌年 2 月 1 日から 3 月 15 日までです。3 月 15 日が土日・祝日の場合は、次の平日が申告期限です。
納税場所
基本的には、贈与を受けた方の住所地を管轄する税務署で行います。
そのほか、金融機関で現金で納付する他、e-Tax(インターネットバンキングや銀行 ATM など)やクレジットカードでの決済が可能です。
また、納税額が 30 万円以下の場合には、コンビニエンスストアで納付することもできます。
ただし、QR コード付きの納付書が必要で、納付書を国税庁のホームページで作成・出力しなければなりません。
なお、所得税の確定申告も 2 月 15 日から始まるため、この時期の税務署窓口は大変混み合います。
じっくりと相談ができなかったり、待ち時間が長引いたりすることが考えられます。
申告および納税は、なるべく早めに行うようにしましょう。
6. まとめ
今回は、不動産を贈与する際に発生する贈与税について、その計算方法や負担軽減につながる特例についてご説明してきました。
不動産の贈与では、評価額の算出方法をはじめとして専門的知識が必要になるケースが多々あります。
また、今回の記事でお伝えした特例を知っているのと知らないのとでは、納税額に大きな差が生じることは言うまでもありません。
正しく節税するためにも、まずは贈与税の制度や特例について知ることが大切です。
その上で、専門家に相談しながら、慎重に検討を進めていくことをお勧めします。
もしお困りの場合には、税理士等の専門家のご紹介を含め、ご対応致しますので、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。